話し相手を「観察」する

「相手の顔色をうかがう」というのは、いいイメージでは使われない表現です。

ただ、相手の様子に合わせて消極的な行動をとるのではなく、相手の表情に意識を向けることは大切です。

面談の中では、もちろん相手(クライエント)の様子を無視することはできません。

カウンセリング技法にも、「クライエント観察技法」があるくらいですから。

これは、簡単に言えば「クライエントのことをよく観察すること」なのですが、普段の会話の中でも、できているようでできていない部分になります。

自分の中に考えがあったり、伝えたいことに気を取られていると、ついつい相手の様子に気づかないこともあります。

私も、以前CDA資格試験へ向けてロールプレイで練習をしていた時に、有資格者の方に指摘を受けました。

退職を余儀なくされた中年男性のクライエント役と向き合っていたとき、いつまでもその退職に至る詳細を聞き出していた私に、そのロールプレイが終わった後、有資格者の方が言いました。

「本当に話したくない嫌な表情をし続けているのに、気づかなかったの?」

そう言われてハッとしました。

話を聞きだすことに一生懸命だった私は、「気づかなかった」のです。

「相手のため」という名のもとに、相手の気持ちを無視して「相手が受け入れられない」話をし続けていては何にもなりません。

その経験を経て、クライエントと向き合うときは相手の様子をしっかり「観察」し、言葉と表情が矛盾していないか、話しているうちに変化していないか、など意識するようになりました。

よりよい助言をしようと思うあまりに、相手の反応を無視して「いい意見」を話し続けるのではなく、相手の気持ちに沿った関わりをするために、「観察」の視点は大切です。


相手の気持ちを「体感」する

キャリアコンサルタントを目指して取り組む方々と接する中で、ロールプレイは欠かせません。

国家資格のキャリアコンサルタント試験は、「学科」や「論述」試験だけでなく、15分間の面談(キャリアコンサルティング)を実際に行い、その内容を振り返る口頭試問も含めた「実技」試験があるのです。

試験対策としてフィードバックさせていただくことも多いのですが、ロールプレイのクライエント(相談者)役をさせていただくこともあります。

自分の実体験を話すこともありますし、設定した役として相談に至る背景も含めて準備し、臨むこともあります。

しっかり準備したら、ロールプレイではその役になり切ってキャリアコンサルタント役の方に向き合い「相談」していきます。

この体験は、実はキャリアコンサルタントとして面談するうえで、とても勉強になるのです。

クライエントはどのように接してもらうと話しやすいのか、どのように問われると無理なく自然に内省していけるのか、答えにくい質問は何か、聴いてもらえている実感はどういうときに感じるのか、などなど…。

キャリアコンサルタントとしてクライエントに向き合うとき、その感覚を知っているかどうかで、接し方は変わってきます。

それも、知識やスキルとして「知っている」ことと「体感した」こととでは、大きな違いがあります。

実社会でも、いろいろな経験をした人は、相手の気持ちが理解できると言います。

「体感」して理解したことを、実際のロールプレイや面談で活かすことで、関わり方に深みが増していきます。


大切なことは、「悩み」「迷う」からこそ得られる

2018年卒の大学生の就職活動は内定式も終わり、そろそろ終息しつつあります。

実際に学生さんと関わっていると、巷で言われている「売り手市場」を本当に実感します。

厳しい就職活動を強いられる時代には、すんなり結果に至らないケースでも、あっさり内定取得できる場合も多く…。

方向性が絞り切れておらず、手当たり次第に活動している学生。

人当たりがよくコミュニケーション力はあるけれど、その企業に向けての志望度が感じられない学生。

対人経験が少なく、社会人として人と接していくうえでまだ不安がある学生。

こういった学生さんの場合、いわゆる「自己理解」「企業研究」「コミュニケーションスキル」などがまだ不足しているのです。

もともと学生生活では不自由していなかったので、就職活動をきっかけに、通過しない理由を悩んだり迷ったりして、徐々に身につけていけばいいのです。

周囲の人に話を聞いたり、自問自答したり、社会人との接し方を練習したり…。

「苦しむのは嫌」でも、少し視点をずらして先のことを考えると、その過程はとても大切です。

その過程の中で自分を見つめ、納得し、覚悟も決まります。

大学新卒の就職活動は、初めて経験することばかり。

何だか難しそうでハードルが高いと思っていたのに、現実には「売り手市場」で思った以上に結果に繋がってしまい、迷わずあっさり就職先を決めてしまう例も多くなっています。

結局入社後に迷い、早期退職に至る場合も。

就職活動の中で、いかに自分を見つめ、企業を見つめ、将来へ目を向けていけるか。

私たちキャリアコンサルタントはもちろん、親御さんや企業の方々にも心がけてほしい点です。


働くことで、その人の生き方も変わる

凄惨な殺人事件が世間の注目を集めています。

容疑者が、正社員を辞めてからの仕事の遍歴を知り、「働くことで、その人の生き方も変わる」ことを感じます。

「働くこと」と「生き方」は、「ニワトリが先かタマゴが先か」と同じく、どちらが先で影響しあっているかは分かりにくいです。

でも私が多くの方々の「働くこと」に携わる中で、「生き方」との関わりを実感することも多いのは事実です。

公共職業訓練としてパソコンを教えている会社で、修了後の就職支援をした方もその一人です。

その方は、大学受験に失敗してから引きこもりがちなまま23歳になり、そんな日々を何とかしたいと職業訓練に通い始め、日々通学するなかで生活のリズムを整え、他者との関係も築きながら社会への一歩を踏み出していました。

彼女はクラスで一番若い女性だったにもかかわらず、地味な服装で化粧っ気もなく、髪も後ろで一つに黒ゴムで縛っていました。

真面目な彼女は日々パソコンに取り組んでMOSの資格も取得。

しかし、修了日が近くなって始めた就職活動では、月一回の通院や今までの職歴の無さもあり、なかなか結果が出せません。

そこで、まずは契約社員としての勤務から…と臨時職員(公務)に応募し、何とか社会復帰を果たしたのでした。

契約期間まで何とか務めた彼女は、再度就職活動をし、今度はリース会社の事務職に正社員として採用されました。

その後3か月…

仕事帰りに立ち寄ってくれた彼女の姿を見てビックリ。

きれいにメイクしてウェーブした髪は華やかに。

「働いた給料で”セシルマクビー”に買い物に行くのが楽しみ!」

見た目はもちろん、目の輝きが別人でした。

以前は肩身が狭くて会えないと言っていた友人と「食事に行く約束をした」と楽しそうに話してくれた彼女の姿を見て、私は「働くこと」は「生き方」そのものを変えるのだと強く実感しました。

収入が得られるだけでなく、働くことで自信がつき、生活にもメリハリが。

「働くことで、その人の生き方も変わる」

両極端な例ですね。